第4回生物試料分析科学会
中国四国支部学会
抄 録 集
日 時:平成21年8月9日(日) 13時30分~17時05分
会 場:広島大学広仁会館大会議室(2F)
〒734-8551 広島市南区霞1丁目2番3号
TEL 082-257-5098
学会長:松原 朱實
広島大学病院診療支援部検査部門
〒734-8551 広島市南区霞1丁目2番3号
TEL (082)257-5098 FAX (082)257-1579
E-mail matsuba@hiroshima-u.ac.jp
事務局長:高夫 智子
済生会広島病院臨床検査室
〒731-4311 安芸郡坂町北新地2丁目3番10号
TEL (082)884-2566 FAX (082)820-1746
E-mail takabu@saiseikai.com
主 催:生物試料分析科学会中国四国支部
(http://www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/bsacsb/)
後 援:社団法人 広島県臨床衛生検査技師会
目 次
*****広島城*****
Ⅰ. 「特別講演」
「質量分析のやさしい原理からガンマーカー探索まで
―MSは臨床検査の未来を変えるか?―」
広島大学大学院医歯薬学総合研究科
分子治療デバイス学講座 教授 升島 努
Ⅱ. 「一般講演」
香川県立保健医療大学 細萱 茂実
2 プラスミノゲン変異型PLG-M5の原因遺伝子の検査
愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野 沖浦 達幸,他
3 唾液中および呼気凝縮液中分泌型免疫グロブリンAの検討
広島大学大学院保健学研究科 對東 俊介,他
4 当院の消化器がん検診と尿中H. pylori抗体検出率
島根大学病院 検査部 馬庭 恭平,他
5 LED血管位置検出装置用皮膚ファントム作製の試み
愛媛県立医療技術大学保健科学部臨床検査学科 大森加代子,他
6 生化学自動分析における異常反応例について
徳島大学病院 診療支援部 中尾 隆之,他 ・
7 ウェルシュ菌由来フィブロネクチン結合タンパク(FbpA,FbpB)の機能解析
岡山理科大学大学院 山副 良介
8 ウェルシュ菌表層にあるフィブロネクチンレセプターの探索
岡山理科大学大学院 中村 悠介,他
Ⅲ. 「話題提供」
1 新測定法:マイクロチップ電気泳動イムノアッセイシステムについて
肝がんマーカーの迅速測定
和光純薬工業株式会社 臨床検査薬営業本部 足立 祥子 ・・・・・・ 18
2 HbA1cの標準化と糖尿病治療
ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 IVD事業本部販売企画部 山田 洋一
抄 録
***広島護国神社*****
特別講演
「質量分析のやさしい原理からガンマーカー探索まで
―MSは臨床検査の未来を変えるか?―」
広島大学大学院医歯薬学総合研究科
分子治療デバイス学講座 教授 升島 努
しばらくお待ちください、ただいま校正中
一般演題
○細萱茂実
香川県立保健医療大学
【目的】検量線が非線形となる測定法について,測定範囲別に不確かさを求める方法と,対数変換した測定値を用い求める方法を比較評価した。
【方法】測定法の前提:非線形校正測定でも校正が適切に実施されていれば,標準物質の表示値と測定値との関係は直線となる。そこで,標準物質の測定値を用い線形校正方式の不確かさ推定法を適用した。
以下に示す3種類の不確かさの成分から合成標準不確かさを推定した。標準物質の不確かさは,認証書の値を用いた。校正に伴う不確かさは,検量線の表示値と計測値の関係にSN比による解析法を適用し推定した。測定に伴う不確かさは,管理物質や標準物質の連日の繰返し測定値に分散分析を適用し推定した。不確かさ推定事例として,ラテックス免疫比濁法によるCRP測定法を取り上げ,校正物質は血漿蛋白国際標準品にトレーサブルで,相対標準不確かさは2.4%とした。
【結果および考察】CRP測定値のばらつきは濃度に依存して変化した。その対応として,ばらつきの大きさがほぼ一定な濃度域ごとに評価する方法,および対数変換値を用いて評価する方法を適用し,両方で概ね同様な不確かさの成績を得た。
2.プラスミノゲン変異型PLG-M5の原因遺伝子の検査
○沖浦達幸1),辻村隆介1),丸本恵里香2),宍野宏治1),西向弘明1)
1)愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野,2)愛媛大学医学部
【目的】プラスミノゲンの分子異常症はAoki et al. (1978) により初めて報告され,plasminogen Tochigi と命名された。この変異成分はプラスミノゲンとしての抗原をもつが活性は見られない。一方,演者ら(H.N. et al.,1981)は等電点電気泳動法を使用して日本人集団から数種類のアロタイプを検出し,その1つ(PLG-B と命名,後にPLG-M5 に改称)は活性をもたないこと,そしてPLG-M5 のヘテロ接合型は健常人100名から約3名の割合で検出されることを報告した。また,plasminogen Tochigi はPLG-M5のホモ接合型であることも判明した。その後,遺伝子解析が行われ,PLG-M5 はタイプⅠの分子異常 (Ichinose et al.1991) として知られている。DNA試料からのPLG-M5 検査にはPCR-RFLP法が使われるが,今回,PCR-SSP法による検出を行ったので報告する。
【方法】PCR-RFLP検査により遺伝子型既知(正常タイプとM5のヘテロ接合型および正常タイプのホモ接合型)のDNA試料を使用した。そしてPCR-SSP法のためのプライマーを考案し,PCR条件を検討した。
【結果・まとめ】エクソン15のnt1801がG(正常)およびA(M5)のそれぞれを含む遺伝子領域を特異的に増幅させるプライマーセットを用い,増幅産物の有無を判定することにより,容易かつ確実に検査が可能であった。PCR-RFLP法ではPCR増幅後に制限酵素Fnu4HⅠの処理を要するが,今回のPCR-SSP法はその操作は不要であるため,コストと時間の節約ができる利点がある。
一般演題
3.唾液中および呼気凝縮液中分泌型免疫グロブリンAの検討
○對東俊介1),関川清一1),高橋 真1),松原朱實2),稲水 惇1)
1)広島大学大学院保健学研究科,2)広島大学病院診療支援部検査部門
【目的】上気道局所免疫の指標である分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A; SIgA)を,唾液中および呼気凝縮液(exhaled breath condensate; EBC)にて測定し,その関連を明らかにすること。
【方法】健常成人11名(25.2±2.6歳)を対象に,安静時の唾液とEBCを採取した。唾液およびEBC中SIgA濃度測定には,酵素標識免疫測定法(enzyme linked immunosorbent assay; ELISA)を用いた。測定範囲は22.2~600ng/mℓであり,唾液は2000倍希釈にて解析を行った。
【結果】唾液中SIgA濃度は134.6±63.2µg/mℓであり,EBC中SIgAは全ての検体で検出感度未満の濃度であった。
【考察】今回の解析方法ではEBC中のSIgA濃度を測定することは困難であることが明らかとなった。また,唾液とEBCの成分が異なることから,唾液から知りうる病態とEBCから知りうる病態は違うことが明らかとなり,唾液とEBC両方の指標での検討が必要であることが明らかとなった。
4.当院の消化器がん検診と尿中H. pylori抗体検出率
○馬庭恭平,汐田晋也,松田親史,陶山洋二,野津吉友,柴田 宏,長井 篤
島根大学病院 検査部
【目的】当院では,毎年40歳以上の希望する職員に対して胃透視検査を実施してきた。しかしながら,受診率は約50%,コストは約60万円で過去5年間の要精査率は6%,がん発見は1-2例の成績であった。また,被爆(65mGy)や,放射線部としてもこのままの継続は望んでいない。本年からは希望者にH. pylori抗体を測定して陽性者へは消化器内科に紹介し,除菌や胃内視鏡検査や胃部X線検査を選択してもらうこととした。今回実施したH. pylori抗体検査の現状を報告する。
【対象と方法】対象は,40歳以上の当院職員のうちH. pylori抗体検査を希望した職員の尿検体を使用した。測定試薬にはイムノクロマトグラフィー法を原理としたラピランH.ピロリ抗体(大塚製薬)を使用した。
【結果】本年6月の受診者452例でのH. pylori抗体陽性率は154例(34.1%)であった。この陽性率は加齢と共に増加する傾向(40-44歳;18.6%,45-49;29.6%,50-54;41.4%,55-59;42.2%,>60;33.3%)が見られた。また,平成20年度の胃部×線検査所見との関係では,何らかの所見のあった115例中H. pylori抗体陽性は47例(40.9%),要精密検査必要とされた11例中H. pylori抗体陽性は7例(63.6%)であった。
【考察】イムノクロマトグラフィー法を用いた尿中H. pylori抗体検査は,簡便で非侵襲的な尿で検査できることから健診検査としては有用と考えられた。しかし,消化器がんに対する意義はまだ充分に検討されていないことから,今後血清ペプシノゲン検査などとの関係を調査する予定である。
一般演題
5.LED血管位置検出装置用皮膚ファントム作製の試み
○大森加代子,佐川輝高
愛媛県立医療技術大学保健科学部臨床検査学科
【目的】これまで私達はLEDによる血管位置検出は主に反射による影を検出することで行われていることを報告してきた。今回は色の違いによる深さ検出のための基礎データ採取時に不可欠となる皮膚ファントムの作製を試みた。
【方法】血管位置検出装置の光源は黄色LED(585-590nm 20000-24000mcd)と赤色LED(620-630nm 20000-24000mcd)を用いた。皮膚ファントムは各皮膚層に寒天,イントラリピッド,血液,カロチン,メラニン,バリウムの濃度を変化させて作製した。
【結果】より透過性の高い赤色の場合,LEDの照射位置により検出像にずれが生じたが,ずれは血管周辺の構造の違いにも大きな影響を受けた。皮膚ファントムでも同様のことを再現できたが,血管検出範囲や像のずれが小さいなど皮膚を完全には再現できなかった。
【考察】色による光の透過性の違いを利用することによりエコーを用いなくても血管の深さを表すことが可能であるかもしれないと考えられる。そのためには皮膚ファントムによる基礎データの蓄積が必要となる。反射層の改善など皮膚ファントムの完成度を更に高めなければならない。
6.生化学自動分析における異常反応例について
○中尾隆之、三井和之、永峰康孝
徳島大学病院 診療支援部
【はじめに】生化学自動分析における異常反応例に関しては,その具体例を知ることによって、迅速な対応を行うことが可能となる。本演題では,生化学自動分析における異常反応例について紹介する。
【事例1】ダブルカイネティックによるRate-Assayを行うCKで,吸光度変化をとらえている第1試薬投入から第2試薬投入までの反応において,吸光度が中途から上昇し,結果的にRate区間における吸光度変化の異常を示すエラーとともに測定結果が低値あるいはマイナス打ちした例を経験した。これは,試薬ノズルにおいて結晶が発生していたため,その結晶をつたって他項目の試薬が混入した可能性が考えられた。
【事例2】M蛋白血症検体では,試薬投入時に濁りが発生し,吸光度が上昇することによって測定結果が低値あるいはマイナス打ちをすることが広く知られている。われわれは,グリコアルブミン測定において,事前希釈によっても第1試薬投入時の濁りが消失せず,測定不能となった症例を経験した。
【まとめ】自動分析装置のユーザートラブルシューティングは,機器動作原理の理解とともに,実例の情報を収集し,把握することが重要である。
一般演題
7.ウェルシュ菌由来フィブロネクチン
結合タンパク(FbpA,FbpB)の機能解析
○山副良介1),山崎 勤1),片山誠一2),櫃本泰雄2)
1)岡山理科大学大学院,2)岡山理科大学
【目的】フィブロネクチン(Fn)は血漿中および結合組織中にあるマトリクスタンパクである。様々な細菌がFn結合タンパク(Fbp)をもち,その感染性や病原性に関与していると考えられている。我々はClostridium perfringens(ウェルシュ菌)由来のFbpAおよびFbpBの遺伝子組換えタンパク(rFbpA,rFbpB)を作製し,その機能解析を試みた。
【方法】ウェルシュ菌13株(St13)をビオチン化し,gelatinおよびcollagenとの結合をプレートアッセイ法で測定した。また,St13をFn,rFbps存在下でインキュベートし,gelatinおよびcollagenへの結合性の変化を調べた。
【結果】St13は,Fn存在下で初めてgelatinおよびcollagenに結合した。また,この系にrFbpsを共存させると,結合が抑制された。
【考察】ウェルシュ菌は創傷感染時,血漿中のFnを表面に結合することで,collagen等のマトリクスタンパクに接着すると考えられる。rFbpAおよびrFbpBは,菌表面へのFnの結合を阻害することで,菌の生体内播種に寄与している可能性がある。
8.ウェルシュ菌表層にあるフィブロネクチンレセプターの探索
○中村悠介1),山副良介1),山崎 勤1),片山誠一2),櫃本泰雄2)
1)岡山理科大学大学院,2)岡山理科大学
【目的】フィブロネクチン (Fn) はヒトの血漿や結合組織にあるマトリクスタンパクの1つであり,創傷治癒過程や生体防御に関与している。多くの細菌でFnと結合するタンパクが見いだされ,感染巣形成に関与していると考えられている。我々はClostridium perfringens(ウェルシュ菌)の菌体表層にある Fnレセプターの分離同定を試みた。
【方法】Fnをサーモリジンで消化し,得た断片と菌との結合を調べた。ウェルシュ菌13株をフレンチプレスにより破砕,粗細胞壁分画を得た。これをlysozyme処理して菌体表層タンパクを抽出し,SDS-PAGE,Ligand blottingを行った。
【結果】菌はFnの110 kDa fragmentと結合した。菌の粗細胞壁分画成分中,分子量 10~30 kDaにFnの110 kDa fragment と反応するタンパクが数本認められた。
【考察】Fnの110 kDa fragment と特異的な反応を示すレセプタータンパクがウェルシュ菌表層に存在する。今後,このタンパクを単離・同定する予定である。
話題提供
1.新測定法 マイクロチップ電気泳動イムノアッセイシステムについて
肝がんマーカーの迅速測定
○足立祥子
和光純薬工業株式会社 臨床検査薬営業本部
国内における肝がんの特徴は,約90%が肝炎ウイルス感染者で,そのうち約70%がC型肝炎からの発癌によるものです。よってB型C型肝炎患者は肝がんのハイリスクグループであり,肝硬変患者は超高危険群として定期的な検査が必要です。早期診断の為には肝がんの腫瘍マーカーであるAFP,AFP-L3%,PIVKAⅡのコンビネーション測定と,腹部超音波,CT/MRIなどの画像診断の併用が有効とされています。
2種類以上の腫瘍マーカーを測定することが肝癌診療ガイドラインでも推奨されており,腫瘍マーカーの検査結果を元に画像検査,臨床診断を行うことで診断効率の向上にも繋がると考えられます。
そこで我々は,長年培ったLBA技術と新たなμTAS(Micro Total Analisys System)技術を利用し,迅速測定,高感度測定が可能な全自動蛍光免疫測定装置ミュータスワコー i30を開発しました。本システムは,微細加工技術で成型されたマイクロチップ上で免疫測定に必要な分注,混合,洗浄,分離,検出の工程を行うもので,試薬と検体の微量化と免疫反応2分,結果報告9分という迅速測定を実現しました。更にDNA標識抗体や等速電気泳動の技術により高感度化も実現することができました。本装置のAFPの最小検出感度は0.3ng/mLでAFP濃度10ng/mL以下でのAFP-L3%も測定可能です。これにより今までわからなったAFP低濃度域のAFP-L3%の結果も報告することが可能になりました。今回発売したミュータスワコー i30での現在の測定項目は,AFP,AFP-L3%,PIVKAⅡですので,肝がん診療において腫瘍マーカーのコンビネーション測定や,画像検査などの診療前検査に十分お役立ちできる装置と考えています。
話題提供
2.「HbA1cの標準化と糖尿病治療」
○山田洋一
ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 IVD事業本部 販売企画部
HbA1cの日本における標準化は、JDS/JCCLSの標準化事業に、医療機関、診断薬、診断機器メーカーを問わず、日本国内の業界をあげて取り組んできた結果、一部には、いまだ
乖離はあるものの、見事に数値が収束しており、全国どこででも、糖尿病患者はHbA1cの
数値をもとに適切な血糖管理による、良質な糖尿病治療を享受できるようになっていると言える状況にあるかと思います。
日本においては、空腹時採血の徹底やHbA1c値を用い患者指導を懇切丁寧におこなってきたこともこの大きな要因でもあります。
2007年ADA、ESDA、IFCC、IDFの学術四団体により、HBA1cの表記に関してのコンセンサスステートメントとして「NGSPとIFCCの併記」が発せられ、また、日本糖尿病学会においても国内におけるHbA1cの定義および表記のステートメントが柏木委員長より「JDSとIFCCの併記」のルールが発せられています。
しかしながら、WHOの年内診断基準設定の表明や、6月5日付けでADAからは、6.5%を診断基準とする新たな案が発信されており、報道資料を見るかぎりにおいては、NGSPを世界的な標準とする動向は強まっています。
ADAはまた、日本ではまだ認可されていない持続的血糖モニター(CGMS)をもとに求めた、A1c換算平均血糖値(ADAGまたはeAG)を患者指導ツールとして使用する動きも強めています。
弊社は、ロシュグループの一員としてHbA1cの測定試薬である「免疫比濁法試薬」をJDS/JCCLSに対応して、長年取り扱ってまいりました。
その間、蓄積した情報、海外事情、また、医薬品メーカーの視点からの、あらたな糖尿病治療医薬品による今後の治療における話題を交えて、HbA1cの将来について語りたいと思います。
学会印象記
担当 生物試料分析科学会中国四国支部 支部長 宍野宏治