第1回 生物試料分析科学会 中国四国支部会

岡山城遠景

岡山城遠景

第1回 生物試料分析科学会 中国四国支部会
抄 録 集

日時:平成18年8月26日(土) 14時~16時40分
会場:後楽ホテル 〒700-0827 岡山市平和町5-1
TEL 086-221-7111, FAX 086-221-0007

学会長:宍野 宏治

(愛媛大学医学部附属病院診療支援部)
〒791-0295 愛媛県東温市志津川
TEL 089-960-5626, FAX 089-960-5627

主催:生物試料分析科学会中国四国支部
(http:/www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/bsacsb/)
後援:社団法人 岡山県臨床衛生検査技師会

目次

特別講演
司会 宍野宏治(愛媛大学医学部附属病院)
「生活習慣病と臨床検査」 近畿福祉大学 教授 片山善章

一般演題(1-2)
座長 柴田 宏(島根大学医学部附属病院)、 高夫智子(済生会広島病院)
1.尿中ミオイノシトール測定による耐糖能異常群の検出
旭化成ファーマ株式会社
○山越 勝、生田 茂、今村 茂行
2.血清Ⅳ型コラーゲンと高脂血症との関連性について
愛媛大学医学部附属病院 診療支援部1) 総合臨床研修センター1)
○宍野宏治1)、岡本康二1)、橋本 香1)、村瀬光春1)、 高田清式2)

一般演題(3-4)
座長 金光房江(倉敷中央病院検査科)、徳永賢治(香川県立医療技術大学)
3.BMTおよびCBSCT施行後の法医学的個人識別法による生着判定
愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野
○沖浦 達幸, 西向 弘
4.動脈硬化症におけるBNPの測定意義
島根大学医学部附属病院検査部、同 循環器内科1)、同 臨床検査医学2)
○狩野 賢二、宇野 誓子、田中 延子、新田 江里、宮木 真里、庄野 智子、
福間 麻子、柴田 宏、島田 俊夫1)、益田 順一2)

話題提供(1-2)
座長 西向弘明 (愛媛大学医学部)、 松原朱實 (広島大学医学部附属病院)
1.ウェルシュ菌粗細胞壁画分から抽出したフィブロネクチン結合タンパク
岡山理科大学大学院生物化学専攻1、岡山理科大学臨床生命科学科2
○横山 雅子1)、野津 菜々実1)、片山 誠一2)、櫃本 泰雄2)
2.sdLDLと動脈硬化
デンカ生研 臨床試薬部 CS課
○瓶子 隆

学会印象記
金光房江(倉敷中央病院検査科)、柴田 宏(島根大学医学部附属病院)

特別講演

生活習慣病と臨床検査

近畿福祉大学  片山善章

[はじめに]
日本人の主な疾病の推移は1950年(昭和25年)頃までは結核や急性感染症が死亡原因の上位を占めていたが、1951年には脳血管疾患が第一位の死亡原因となり、1988年(昭和63年)には脳血管疾患,癌,心疾患などの慢性疾患が死亡原因の6割以上を占めるようになった。厚生省は、これらの疾患は40~60歳の働き盛りに多く「成人病」として二次予防に重点を置いた対策をとり、早期発見,早期治療を推進してきた。

[生活習慣病の概念]
1999年(平成11年)の患者数調査によれば、患者数の多い順番から、高血圧性疾患(770万人),糖尿病(350万人),心疾患(210万人),脳血管疾患(180万人),悪性新生物(140万人)であり、1700万人以上の患者数が医療機関を受診している。
これらの疾患は人口の高齢化に従って、ますます増加することが予想される。一方、疾病の発症には「遺伝要因」,「外部環境要因」,「生活習慣要因」が関与していることが明らかになり、最近では健康的な生活習慣を確立することにより、疾病の発症そのものを予防する考え方が重視されるようになってきた。
特に、この生活習慣要因による疾病の関与については、食事,運動,喫煙,飲酒などが慢性疾患と深い関わりがある疫学的観察データから明らかになり、厚生省は生活習慣の重要性を喚起し、健康に対する自発性を促し、生涯を通じた生活改善の重要性から「生活習慣病」という概念を導入した。したがって生活習慣病は健康な人が、その健康な状況をより長く維持し、病気に罹らないようにするにはどうしたらよいかという一次予防に基づく対策である。
今回、この生活習慣によって引き起こされる疾患に対して臨床検査がどこまで貢献できるかについて考えたい。

[生活習慣病に対する臨床検査の貢献]
生活習慣病は遺伝的に糖尿病,高脂血症,高血圧症,肥満になる因子をもっていても全く健康であるが、それに食事,運動,喫煙,飲酒などの環境的因子が加わって病気が発症するのであるが、病気の発症する前に役立っているのは、現状では健康診断時に行われる臨床検査である。しかし臨床検査データは異常であるが症状はなく自分自身は病気でないと思っている人が多い。これは検査データが本当に異常なのかという疑問がある。よく話題になることであるが、「A病院では異常といわれたが、B病院ではそれが正常であると……」。また、健康診断の検査は検査センターで行われる場合が多いが、それぞれの検査センターの基準値(正常値)で判断されているのが実状である。この施設によって検査値が異なることに対して、現在、臨床検査値の標準化が推進されている。
検査方法については勧告法の設定が行われているが、基準値に対しては未整備であり、臨床検査値の共有化ができていないのが現状である。
基準値は性別,年齢,喫煙,飲酒などを明確にして設定することによって、臨床検査が生活習慣病に有効に利用できるのである。
また生活習慣病の一次予防,二次予防のうえで疾患の診断・治療ガイドラインは医療の標準化や普遍化のために重要であり、臨床検査値の標準化が必要である。さらに、最終的には個人の基準値が健康状態を確実に把握するために必要と思われる。

[まとめ]
「成人病」から「生活習慣病」への転換はいずれも行政用語であるが、対策の結果として期待されることは、来るべき少子化,高齢化社会を健康で活力あるものとし、医療費など社会保障負担を適正な水準を保ち、しかも国民に幅広く対応できるという意味で、生活習慣病対策は21世紀における保険医療政策の中で重要になっている。臨床検査も積極的に具体的目標を定めて寄与することが、今後の臨床検査進展の一つの方向として重要である。

一般演題

1.尿中ミオイノシトール測定による耐糖能異常群の検出

旭化成ファーマ株式会社 診断薬製品部
○山越 勝、生田 茂、今村 茂行

【目的】 糖尿病患者尿中にミオイノシトール(MI)が大量に排泄されることは従来から知られていたが、これを精度良く測定する方法はこれまでなかった。我々は、MIに特異的に作用する酵素(MIDH)を見出して新規な高感度測定法を開発し、本測定の有効性の検討を行った。
【結果】 本測定系は、酵素サイクリング反応を利用したもので、検出感度10μmol/L、測定上限は1500μmol/Lであり、感度、再現性ともに極めて良好であった。糖負荷後の尿中MIの増加量(ΔUMI)は耐糖能異常の程度に応じて有意に上昇し、しかも、空腹時血糖値よりも負荷後の血糖上昇を反映する傾向を示した。本測定は、耐糖能異常群、特に負荷後血糖上昇群の簡便な検出法となる可能性が示された。

2.血清Ⅳ型コラーゲンと高脂血症との関連性について

愛媛大学医学部附属病院 診療支援部1) 総合臨床研修センター2)
○宍野宏治1)、橋本 香1)、岡本康二1)、村瀬光春1)、高田清式2)

【目的】 血清Ⅳ型コラーゲンの測定は脂肪肝、特にNASHの診断において、肝生検に匹敵すると報告されている。そこで、血清Ⅳ型コラーゲンと脂肪肝の誘引である高脂血症との関連性について調べた。
【対象および方法】 対象は当院の外来および入院加療中の高脂血症患者とした。
血清Ⅳ型コラーゲン値はパナッセイⅣ (第一化学)をTBA200FRへ適用させて測定した。
【結果】 肥満性脂肪肝のⅣ型コラーゲン値は健常者よりも高値を示した。高脂血症患者のⅣ型コラーゲン値は健常者よりも有意に高値を示したが各群間で有意差はなかった。
【考察および結論】 肥満性脂肪肝患者のⅣ型コラーゲン値は健常者よりも高値を示し、NASH判定の一助になりうることが示唆確認された。また、Ⅳ型コラーゲンは高脂血症の各群で健常者より高値を示した。したがって、高脂血症患者は高中性脂肪血症に限定されず、他の要因の相乗作用により、脂肪肝になりうることが示唆された。

3.BMTおよびCBSCT施行後の法医学的個人識別法による生着判定

愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野
○沖浦 達幸, 西向 弘明

【目的】 同種骨髄幹細胞移植(BMT)や臍帯血幹細胞移植(CBSCT)の施行後,ドナーの造血幹細胞が患者に生着しているかどうかの判定について,我々は法医学的個人識別に使用されているDNA型検査法を使用している。具体的な方法として,変性PAGEとハイブリダイズ法による判定法(PH法とする)とキャピラリー電気泳動による判定法(CE法とする)があり,今回はこれらの2つの方法の操作と検査結果について比較した。
【結果と考察】 生着判定に有効であったDNA型はPH法では2~7ローカスであったがAmpFlSTR Profiler Kit (ABI) を用いたCE法では4~8ローカスであり,どの症例においてもCE法のほうが多かった。またCE法のほうが操作が簡便で,検査に要する時間が短いという長所があり,ドナー細胞の生着判定に有用であった。

4.動脈硬化症におけるBNPの測定意義

島根大学医学部附属病院検査部、同 循環器内科1)、同 臨床検査医学2)
○狩野 賢二1)、宇野 誓子1)、田中 延子1)、新田 江里1)、宮木 真里1)
庄野 智子1)、福間 麻子1)、柴田 宏1)、島田 俊夫1)、益田 順一2)

【はじめに】 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は強力なナトリウム利尿作用および血管拡張作用を有し心不全では重症度に応じて著明に増加することが知られている。今回我々はBNPの血管拡張作用に着目し、BNPと動脈硬化の関連を調査したので報告する。
【対象および方法】 当院循環器内科受診患者で平成17年1月から平成18年2月までにBNPを測定した同時期に生理学的動脈硬化検査した85名を対象とした。内訳は30代男性4名、40代男性3名、50代男性10名・女性2名、60代男性10名・女性19名、70代男性21名・女性8名、および80代男性3名・女性5名である。BNPは、EDTA・2Na採血で直ちに血漿分離後、AIA21(東ソ-)で測定した。動脈硬化の検査として、頚動脈エコー(SONOS5500;PHILIPS)およびPWV(VaSeraVS-1000;フクダ電子)を測定した。
【結果】 BNP値が基準値(20.0pg/ml)以下の低値群(BNP平均10.9pg/ml)と高値群(BNP平均102.1pg/ml)と比較した結果、BNP低値群および高値群の平均年齢は61.9歳および69.9歳であった。同様に 頚動脈maxIMTは1.98mmおよび2.58mm、PWVは7.58m/sおよび8.97m/s、T-choは216mg/dlおよび174 mg/dl、TGは148mg/dlおよび108mg/dl 、SBPは120mmHgおよび130mmHg、DBPは79mmHgおよび80mmHgであった。年齢、maxIMT、PWV、T-cho、TG、SBPに有意差(p<0.05)が認められた。
【まとめ】 動脈硬化症は虚血性心不全症の危険因子であることは明らかであるが、今回の検討の結果から、BNPが高値となるような非虚血性心不全症においても動脈硬化と関連があることが示唆された。

話題提供

1.ウェルシュ菌粗細胞壁画分から抽出したフィブロネクチン結合タンパク

岡山理科大学大学院生物化学専攻1)、岡山理科大学臨床生命科学科2)
○横山 雅子1)、野津 菜々実1)、片山 誠一2)、櫃本 泰雄2)

ヒトの血漿中や細胞表層、結合組織内にはフィブロネクチン(FN、分子量450kDa 、糖タンパク質)が含まれている。FNは代表的なマトリクスタンパクのひとつで、創傷治癒過程や生体防御において重要な役割を果たしている。近年、ブドウ球菌やレンサ球菌などの菌体表層にFN結合タンパクが見出され、それらと病原性との関連が注目されている。一方、ガス壊疽や食中毒の原因となるウェルシュ菌(Clostridium perfringtens)にFN結合タンパクがあるかどうかについては不明である。今回我々はウェルシュ菌の菌体表層にFN結合タンパクが存在することを示すとともに、そのタンパクの精製・同定を試みた。

2.sdLDLと動脈硬化

デンカ生研 臨床試薬部 CS課
○瓶子 隆

低比重リポ蛋白(LDL)-コレステロールの上昇が冠状動脈硬化性心疾患(CHD)の発症および進展の最も重要な危険因子であることは明らかとなっているが,LDL-コレステロール値が正常でもCHDを発症する例が数多く存在するのも事実である。そこで,最近ではLDLの量のみだけではなく質の問題も重要視され,LDLの中でも粒子サイズが小さく比重の重いSmall,dense LDL(以下sdLDL)が注目されている。
sdLDLはLarge LDL(以下L LDL)と比較して,
・酸化されやすい
・肝臓のLDLレセプターに取り込まれにくい
・血管壁との結合親和性が高い
などの理由からCHDの最も危険なマーカーの一つと考えられ,LDL粒子の中でも“超悪玉(コレステロール)”と呼ばれている。
また,最近 sdLDLとインスリン抵抗性,腎疾患などとの関連性も注目されはじめている。

<参考文献> 平野勉 最新医学 56:1158-1164,2001

学会印象記

倉敷中央病院検査科 技師長,Ph.D.-医学博士  金光 房江

insyou_02平成18年8月26日(土)、岡山市で第1回生物試料分析科学会中国四国支部定期例会が、岡山理科大学大学院櫃本先生のお世話で開催されました。当支部は平成15年初代支部長に松江赤十字病院(当時)の深田先生が就任され、基礎固めをされました。今年、2代目支部長として愛媛大学病院の宍野先生が就任され、精力的に活動されて、この記念すべき第1回定期例会の開催の運びとなりました。参加者数は46名で、地元岡山県を始め、広島、島根、愛媛、香川、兵庫の各県と企業から参加され、活気ある例会となりました。
開会に当たり、事務局長で香川県立医療技術大学の徳永先生の司会のもと、宍野支部長から開会の辞がありました。この時、美しいホームページの紹介もありました。後援した(社)岡山県臨床検査技師会長代理(金光)の挨拶の後、一般演題4題の発表がありました。「尿中ミオイノシトール測定による耐糖能異常群の検出」(旭化成ファーマ山越先生)、「血清Ⅳ型コラーゲンと高脂血症との関連について」(愛媛大学病院宍野先生)、「BNTおよびCBSCT施行後の法医学的個人識別法による生着判定」「愛媛大学大学院医学系沖浦先生」、「動脈硬化症におけるBNPの測定意義」(島根大学病院狩野先生)と、いずれもハイレベルで、生物試料分析科学会のレベルの高さを、中国四国支部でも垣間見ることができました。
話題提供では「ウェルシュ菌粗細胞壁画分から抽出したフィブロネクチン結合タンパク」(岡山理科大学大学院生物化学専攻横山先生)、「sdLDLと動脈硬化」(デンカ生研瓶子先生)と、最新の研究成果を講演されました。特別講演は学会長の近畿福祉大学片山善章先生が、「生活習慣病と臨床検査」について講演され、記念すべき第1回定期例会にふさわしい豪華なプログラムになりました。
前支部長深田先生の閉会の辞に続き、幹事会が開催されました。次回支部例会は来年の8~9月ごろ、広島市での開催を検討することになりました。幹事一同、一層の盛会を期待して閉会としました。ホームページをご覧の皆さん、次回は参加してくださいね。

島根大学医学部附属病院 検査部臨床検査技師長,Ph.D.-医学博士  柴田 宏

insyou_03まだ残暑の厳しい8月26日、第1回の記念すべき生物試料分析学会中国四国支部定期例会が岡山市の後楽ホテルで開催された。当初は中国四国支部立ち上げの話し合い程度の予定であったのだが、支部長の宍野先生(愛媛大学病院)や事務局長の徳永先生(香川県立保健医療大学)の強力な指導力の元に、記念学会に導かれたことに敬意を表さずには居られない気持ちである。
さて、参加人数が心配されたところであるが、用意された会場は満員となり盛会であった。私は一般演題の座長を仰せつかり、記念すべき第一演題を進行することとなった。糖尿病の耐糖能異常者の検出に有用な尿中ミオイノシトール検出試薬について旭化成ファーマ社からの発表であった。私自身としては全く新しく聞く検査項目であったが、非侵襲的な尿から汎用機で耐糖能異常者をスクリーニングできるので有れば普及する検査であろうと思われた。この演題を合わせて、一般演題4題、話題提供2題、最後に本学会会長である片山善章先生の特別講演があった。片山先生からは生物試料分析学会設立の経緯などもお話があり、知的欲求を満足させる有意義な一日であった。

以上