第3回 生物試料分析科学会 中国四国支部会

玉藻公園内の月見櫓

第3回 生物試料分析科学会 中国四国支部会
抄 録 集

日時:平成20年8月9日(土) 14時20分~17時50分
会場:香川県社会福祉総合センター 第二中会議室(7F)
〒760-0017 高松市番町1丁目10番35号
TEL 087-835-3334

学会長:徳永 賢治
(香川県立保健医療大学 保健医療学部 臨床検査学科)
〒761-0123  香川県高松市牟礼町原281-1
TEL(087)870-1264 FAX(087)870-1205
E-mail oota@chs.pref.kagawa.jp

主催:生物試料分析科学会中国四国支部
(http:/www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/bsacsb/)
後援:社団法人 愛媛県臨床衛生検査技師会
社団法人 香川県臨床衛生検査技師会
社団法人 岡山県臨床衛生検査技師会

目次

特別講演
座長 徳永賢治(香川県立保健医療大学)
「生体内における活性酸素と各種疾患および老化との関わり」
元藤田保健衛生大学衛生学部・名城大薬学部   篠原 力雄

一般演題(1-2)
座長 中尾隆之(徳島大学医学部付属病院)
1.自律神経による白血球の動態
愛媛県立医療技術大学臨床検査学科
○田坂 麻衣
2.化学発光法による好中球活性酸素産生能の検討
香川県立保健医療大学臨床検査学科
○白井 智子,他

一般演題(3-4)
座長 柴田宏(島根大学医学部付属病院)
3.酵素法によるグリコヘモグロビン測定試薬ノルディアN HbA1cの評価
徳島大学病院診療支援部臨床検査技術部門, 徳島大学医学部病態情報診断学分野
○三井 和之,他
4.カルシウム濃度測定試薬の比較検討
徳島大学病院診療支援部臨床検査技術部門, 徳島大学病院診療支援部病態情報診断学
○三好 雅士,他

一般演題(5-7)
座長 西向弘明(愛媛大学大学院医学系研究科)
5.ヘパリン及び低分子ヘパリンの効果に与えるAT量の影響
広島国際大学大学院総合人間科学研究科医療工学専攻,広島国際大学保健医療学部臨床工学科
○後藤 朱里
6.ヒト補体を抑制するマウス血清成分の同定
岡山理科大学大学院生物化学専攻, 岡山理科大学大学院臨床生命科学専攻
○大塚 直人,他
7.ウェルシュ菌表層フィブロネクチン結合タンパクの分離
岡山理科大学大学院, 岡山理科大学
○山崎  勤,他

一般演題(8-9)
座長 櫃本泰雄(岡山理科大学大学院臨床生命科学専攻)
8.補体9成分(C9)欠損アリールの検査法
愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野,大阪府赤十字血液センター
○沖浦 達幸,他
9.脂質異常症における変性リポ蛋白測定法の評価
愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野
○宍野 宏治,他

話題提供(1-3)
座長 宍野宏治(愛媛大学大学院医学系研究科)
1.学生定期健康診断肝機能検査から生活習慣病予防へ
愛媛大学総合健康センター
○佐伯 修一
2.ISO27001認証取得と臨床検査室の取り組み
済生会広島病院
○高夫 智子
3.アディポネクチン測定系について
大塚製薬株式会社 診断事業部
○安藤 千治

学会印象記
西向弘明(愛媛大学大学院医学系研究科)
中尾隆之(徳島大学医学部付属病院)

特別講演

「生体内における活性酸素と各種疾患および老化との関わり」

元藤田保健衛生大学衛生学部・名城大薬学部  篠原 力雄

玉藻公園内の披雲閣

好気的生物は酸素なくしては生存できない。それは、酸素が生体内で主に電子伝達系の酸化的リン酸化反応によるATP産生に必須なためである。酸素は比較的反応性が高く、ある種の生物(嫌気性菌など)には強い毒性を示す。我々の体内に取り込まれた酸素がいろいろの代謝に利用されているが、中には副反応的に更に毒性の強い酸素種いわゆる活性酸素を生成することはよく知られている。活性酸素種としては、スーパーオキサイドアニオン(O2-)、ヒドロキシラジカル(HO・)、一重項酸素、パーオキシナイトライト(ONOO-)、NOラジカル、H2 O2 、O Cl -などがある。これらは、好気的生物において重要な反応に関与する反面、強い毒性を示すことから、その毒性を消去するシステムが備えられている。そのシステムとしてスーパーオキサイドデイスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの酵素系の他、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、尿酸、ビリルビンなどの低分子性の抗酸化物系がある。生存のために取り込んだ酸素に基因する活性酸素は、通常では消去系により消去されているが、そのバランスが取れなくなった時には、生体に重要な影響を及ぼす。各種の疾患、老化現象などの原因になりうる。以上のような活性酸素代謝について述べたい。

一般演題

玉藻公園内 月見櫓遠景

1.自律神経による白血球の動態

○田坂麻衣* 岡村法宜 岡田眞理子
愛媛県立医療技術大学臨床検査学科

【目的】 生理的な負荷による短時間の自律神経系変動に伴い,被験者の血液中白血球動態に有意な変化が見られるか否かをフローサイトメトリーにより検討することを目的とした。
【方法】 対象:健常成人男女7名(24±6歳)。負荷:半仰臥位で30分間の尺骨筋への電気刺激と足湯刺激。自律神経系の評価:心拍変動の揺らぎ成分をフーリエ変換を用いて解析した。フローサイトメトリー:負荷前後の血液について各種抗体と内部標準粒子を用い各種細胞の絶対数を測定した。フィブロネクチン(FN)エピトープ陽性好中球は抗FNモノクローナル抗体MOを用いて測定した。
【結果と考察】 1)電気刺激で交感,足湯で副交感神経由来周波数成分の増加が見られ,それぞれ交感・副交感神経優位になる傾向が確認された。2)交感神経負荷でNK細胞(CD16リンパ球)数の減少が認められ,生理的な範囲の交感神経刺激でNK細胞数の変動が起こることが示唆された。3)交感・副交感神経負荷によりそれぞれFN陽性率の増加,減少の傾向が見られ,自律神経系変動に伴い好中球の質的変化が起こることが示唆された。
*現所属:愛媛大学 無細胞生命科学工学研究センター

2.化学発光法による好中球活性酸素産生能の検討

○白井智子 土居香奈江 徳永賢治 太田安彦
香川県立保健医療大学臨床検査学科

【目的】 好中球は各刺激物質により活性酸素を産生し,病原物質に対して強力な殺菌効果を示すが,過剰に産生された場合,種々の病態を引き起こす原因になりうる。一方,刺激物質や測定方法によって好中球の産生する活性酸素の反応性は大きく異なる。今回,化学発光法による好中球活性酸素産生能について検討した。
【方法】 好中球をヘパリン加採血後,モノポリ分離剤で分離し試料とした。化学発光測定装置はルミネッセンサーPSN(ATTO株式会社),発光試薬としてMPECを用いて測定した。好中球刺激物質にはPMA,fMLP,OZを用いて好中球活性酸素産生能を調べた。さらに,反応阻害物質としてSOD,CAT,NaN3を反応前に加え,好中球由来活性酸素とMPECの反応性を検討した。
【結果・考察】 本法による好中球活性酸素産生能は,PMA刺激による発光が最も強く,次いでfMLP,OZであった。MPECに反応する活性酸素種について,ヒポキサンチン-XOD系と比較した。ヒポキサンチン-XOD系ではSODにより発光が抑制され,CAT,NaN3では阻害を示さなかった。好中球由来活性酸素に対しては,PMA,fMLP,OZ刺激でSODは抑制され,CATは影響を認めなかった。NaN3はOZ刺激のみ抑制が示された。

3.酵素法によるグリコヘモグロビン測定試薬ノルディアN HbA1cの評価

○三井和之1) 中尾隆之1) 髙松典通1) 永峰康孝1) 土井俊夫2)
1)徳島大学病院診療支援部臨床検査技術部門
2)徳島大学医学部病態情報診断学分野

【目的】 糖尿病の血糖コントロールの代表的な指標であるHbA1cの測定法には,現在HPLC法、免疫学的測定法に加え酵素法がある。今回我々は酵素法による液状試薬ノルディアN HbA1c(積水メディカル)の評価を行ったので報告する。
【対象および方法】 本院患者検体を対象とした。測定機器は日立7170形自動分析装置およびHPLC法のHLC-723G7(東ソー)を用いた。
【結果】 1)精度:3濃度の溶血処理試料を10回連続測定したときのHbA1c(%)のCV(変動係数)は,0.1~0.2%であった。2)直線性:2濃度の患者検体を用いて10段階希釈系列を作成し、希釈直線性を検討したところ,4.0~15.0%の間で直線性が認められた。3)相関性:患者検体100例を用いてHPLC法との相関性を検討したところ,血糖測定用採血管(NaF,ヘパリンNa,EDTA-2Na)ではr=0.994,y(酵素法)=0.99x(HPLC法)-0.09,EDTA入り採血管(EDTA-2K)ではr=0.996,y=1.01x-0.15であった。また,両採血管による相関性はr=0.997,y(EDTA-2K)=1.03x(NaF,ヘパリンNa,EDTA-2Na)+0.01であった。
【考察】 ノルディアN HbA1cは再現性,直線性,相関性のいずれも良好な成績を示した。今後さらに追加検討を行う予定である。

4.カルシウム濃度測定試薬の比較検討

○三好雅士1) 中尾隆之1) 庄野和子1) 永峰康孝1) 土井俊夫2)
1)徳島大学病院診療支援部  2)病態情報診断学

【はじめに】 現在Ca測定はO-CPC法が主流であるが,試薬安定性,検量線のシグモイドなど問題点が指摘され,酵素法,色素法などの測定法が普及しつつある。今回われわれはこれらのCa測定試薬の比較検討を行ったので報告する。
【機器・試薬】 測定には日立7700-110形自動分析装置Pモジュールを用いた。検討試薬にはO-CPC法(三菱化学メディエンス),MXB法(和光純薬),クロロホスホナゾⅢ法(ニットーボーメディカル),アルセナゾⅢ法(カイノス),酵素法(シノテスト)を使用した。
【検討結果】 ①再現性:QAPトロール(シスメックス)を用いた同時・日差再現性はいずれも良好であった。②試薬開封後の安定性:試薬開封後35日間で、O-CPC法は全試料で約55%の低下、MXB法はQAPトロール1Xおよびプール血清において約10%の上昇がみられた。また,酵素法では全試料で6%低下した。③正確さ:電解質標準血清JCCRM321-4(M,H)を測定したところ,認証値からのBias(%)は-2.69~1.76%であった。
【まとめ】 色素法,酵素法では試薬安定性がキレート法に比べ改善されており,正確さ等も問題なく,日常検査法として有用であると考えられる。

5.ヘパリン及び低分子ヘパリンの効果に与えるAT量の影響

○後藤朱里1) 瀬々しおり2) 井手口裕子2) 阪田光彦1)2)
1)広島国際大学大学院総合人間科学研究科医療工学専攻
2)広島国際大学保健医療学部臨床工学科

【目的】 血液透析現場では抗凝固剤としてヘパリンが多くの場合に使用されるが,それ自身には抗凝固作用がほとんどなく,血液中のアンチトロンビン(AT)と結合することによって抗凝固作用を発揮する。しかし,血液透析患者ではATの減少を示す場合が多いとされ,ダイアライザーや回路内の凝血がしばしば起こる。今回,AT量が未分化ヘパリン及び低分子ヘパリンの作用に与える影響を見た。
【方法】 免疫学的に作成した様々なAT%濃度の血漿に一定量のヘパリンまたは低分子ヘパリンを加え,抗凝固活性を活性化トロンボプラスチン時間(APTT)を使用し,血液自動凝固測定装置(ST4)にて測定評価した。
【結果】 AT量が60%未満ではAPTTの延長が見られず,ヘパリンの抗凝固効果がAT 100%ものに比して20分の1まで減弱した。低分子ヘパリンでもAT量が50%未満で抗凝固効果が減弱していた。
【考察】 AT量が60%未満の場合ではヘパリンの効果が得られない。血液透析患者においてはATが減少していることが多く,これらの患者においてはヘパリンや低分子ヘパリンによる抗凝固抑制作用が期待できないため,抗トロンビン剤への変更が必要である。

6.ヒト補体を抑制するマウス血清成分の同定

○大塚直人1) 重森 薫2) 山崎 勤1) 櫃本泰雄2)
1)岡山理科大学大学院生物化学専攻
2)岡山理科大学大学院臨床生命科学専攻

【目的】 我々は,以前マウス血清中の成分がヒト補体活性を抑制することを見出した。その成分はフィブロネクチン,もしくはそれに関連するものであることが示唆された。今回,このヒト補体抑制物質の同定を目的として,解析を行った。
【方法】 マウス血清からゲラチンカラム,陰イオン交換カラム(Q-Sepharose),Native-PAGEにより分画した。補体による溶血活性の測定は,GGVB2+を用い,感作羊赤血球にヒト補体を加え,37℃,30 分間反応させた後,上清中のヘモグロビン量を測定することにより行った。
【結果】 マウス血清から分離したゲラチンカラム結合画分および,非結合画分ともにヒト補体活性を抑制した。今回は,まずゲラチン結合画分を調べた。ゲラチン結合画分を陰イオン交換カラムで分画すると,メインタンパクピークから少し外れたフラクションに補体抑制活性が認められた。SDS-PAGEにより分画・回収したが,活性はSDS処理により失活した。そこで現在はNative-PAGEによる精製を進めている。

7.ウェルシュ菌表層フィブロネクチン結合タンパクの分離

○山崎 勤1) 片山誠一2) 櫃本泰雄2)
1)岡山理科大学大学院 2)岡山理科大学

【はじめに】 フィブロネクチン(FN)は血漿中などに存在するマトリクスタンパクである。様々な菌が持つFN結合タンパク(Fbp)は感染や宿主の生態防御機構からの回避に関与している。我々はClostridium perfringens(ウェルシュ菌)の菌体表層にあるFbpの分離同定を試みた。
【方法】 ウェルシュ菌13株の表層をビオチン化し,フレンチプレスにより破砕後,粗細胞壁分画を得た。これをLysozyme処理し,抽出したタンパクを陰イオン交換カラム(Mono Q)で分画した。ELISAによりFNに結合する分画を決定した後,SDS-PAGE,FNおよびアビジンによるLigand blottingを行った。
【結果】 Mono QにてNaCl濃度約200~300 mMで溶出される分画の分子量20 kDa付近でFNおよびアビジン両方に反応するタンパクがみられた。
【考察】 今回、FNおよびアビジンの両方に反応したタンパクがみられ,これが菌体表層にあるFbpである可能性が高い。今後このタンパクを同定し,性質や役割を解明していく予定である。

8.補体第9成分(C9)欠損アリールの検査法

○沖浦達幸1) 西向弘明1) 辻村隆介1) 福森泰雄2)
1)愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野
2)大阪府赤十字血液センター

【目的】 ヒト補体第9成分(C9)の遺伝子は全長が約100kbで,11のエクソンが存在する。C9完全欠損者は日本人集団に高頻度で見られ,健康であることが多いが,細菌性髄膜炎や淋菌症を発症しやすいといわれている。我々は日本人のDNA試料を用いC343T置換を生じたR95XおよびG1580A置換を生じたC507Yの2つのC9欠損アリールを,PCR-RFLP法により検出するため,その条件を検討した。
【方法】 正常配列の1塩基を変更したミスマッチプライマーの設計や制限酵素の選択等を行い,第4エクソンの343番塩基および第10エクソンの1580番塩基のそれぞれにおけるSNPを解析した。
【結果と考察】 検査に適した条件を設定することができ,良好な結果が得られた。すなわち,R95XアリールではPCR産物はBstUIで切断されず,正常アリールでは2つの切断片が観察された。また,C507YアリールではPCR産物はBstZ17Iで2つの断片に切断され,正常アリールでは切断されなかった。今後,PCR-SSP法やAPLP法による検査法を検討する予定である。

9.脂質異常症における変性リポ蛋白測定法の評価

○宍野宏治 西向弘明
愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座法医学分野

【目的】 動脈硬化促進のリスクファクターとして脂質の中でも変性リポ蛋白が主な要因と考えられてきている。今回,変性リポ蛋白マーカーとポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)によって検出される多型性LDL血症との関係について調べた。
【対象および方法】 脂質異常患者を対象として,PAGEを実施し,変性リポ蛋白マーカーにはsd LDL-C, RemL-Cおよび新規に我々が開発した糖化アポ蛋白Bを選別した。
【結果】 sd LDL-C値およびRemL-C値および糖化アポ蛋白B値はいずれも多型性LDL血症において高値を示した。なかでもsd LDL 値はD型で高値を示した。RemL-C値は,sd LDL値と同様にD型で高値を示した。一方,糖化アポ蛋白BはNOD型で高値であった。
【ま結論】 sd LDL-C値およびRemL-C値は多型性LDL血症のD型に関与し,糖化アポ蛋白B値はNOD型に関与するものと考えられた。

話題提供

1.学生定期健康診断肝機能検査から生活習慣病予防へ

○佐伯修一
愛媛大学総合健康センター

【目的】 大学生の定期健康診断の肝機能検査はウイルス肝炎や脂肪肝のスクリーニングに用いられ,異常者には二次検査の後,全く異なる生活指導をすることになるため重要な検査である。しかしながら,大多数を占める基準範囲内の値を示す者に対しては教育的指導等の介入がなされる事はない。この様な対象者のなかにも多数の生活習慣病予備軍が存在すると思われる。この基準範囲内者の取り扱いについて他の健診項目との相関に基づいて検討を加えた。
【方法と結果】 愛媛大学の新入生約2000人の健康診断データと生活アンケート調査結果は,個々人でデータベース化した。各種項目間で相関関係を調べた。ASTとALTの相関は基準範囲内においても良好で,血清酵素値の上昇が同一機序であることを示した。  男性のALTは,基準範囲内においても,BMIと強く相関し,基準範囲内高値者は脂肪肝予備軍と考えられた。
【考察】 学生の定期健康診断では,肝機能基準範囲内の者へも生活習慣病予防への指導助言対象になることが示された。指導のポイントや有効性を上げるため,生活アンケートに基づく生活トレンド等の有用性を検討している。

2.ISO27001認証取得と臨床検査室の取り組み

○高夫智子
済生会広島病院

【はじめに】 当施設では情報セキュリティマネジメントシステム(以降ISMS)認証取得を目指し,平成18年2月から情報管理委員会を中心に準備に取り掛かった。当初は情報セキュリティに関する用語を理解することから始まり,施設としての資産を洗い出し,リスク評価をする作業においてはかなりの時間を費やした。平成19年4月・6月と2回に及ぶ予備審査で,必要書類等の作成・改善など,指摘をうけた箇所の修正が完了し,平成19年8月,本審査を受審,10月に認証を取得することができた。今回は,臨床検査室の改善と防衛策の取り組みを中心に報告する。
【目的】 当施設が扱う個人情報や施設情報は、犯罪や事故などで漏洩した場合,社会的な責任が追及されるとともに,施設の存続にも重大な影響をおよぼす可能性がある。これらの課題に対応するため、ISMSを構築し,適切に維持・改善する組織的体制を確立することを目的とする。
【臨床検査室の主な対応】
① 資産の認識とその洗い出し,さらにリスク評価・分析作業を実施
② 情報セキュリティに関する研修会など職員教育の実施
③ プロセスに沿った内部監査を病院全体で実施
④ ISMSマニュアル・適用宣言書・管理策文書・記録様式などの作成。リスクに対応した防衛策手順の文書化
⑤ 高リスク資産である電子媒体の管理
⑥ セキュリティ区画である臨床検査室の入退室管理
⑦ リスク資産に対する年間目標計画書の設定・リスク改善計画
【まとめ】 ISMSというツールの活用により,当施設の適応に沿った防衛策を整えた。ISMSは毎年の定期審査と三年に一度の適応審査により密な継続活動が要求される。リスク分析,内部監査および教育活動の継続的な運用により,レベルの向上を図るとともに,情報セキュリティに関する体制を一段と強化することで,重要な資産をより一層適切かつ安全に取り扱い,その保護に努めたい。
連絡先 082-884-256

3.アディポネクチン測定系について

○安藤千治
大塚製薬株式会社 診断事業部

糖尿病をはじめ高脂血症,高血圧及び動脈硬化性疾患等の生活習慣病は,特にその発症基盤として,食生活,栄養,運動等の生活習慣が大きく関与すると考えられることから,その上流には過栄養による肥満の存在がうかがわれます。一方,従来,脂肪組織はエネルギー備蓄のための組織と考えられていましたが,1996年大阪大学のMatsuzawaらのグループによる大規模ランダムシークエンスの結果,脂肪組織(細胞)が実は多彩な生理活性物質を分泌する内分泌組織(細胞)であることが明らかとなりました。その結果,過栄養や運動不足に起因した脂肪細胞の肥大の結果,アディポネクチン分泌が低下し、血中アディポネクチン濃度が低値となる現象はHypoadiponectinemiaとされ,インスリン抵抗性の惹起,動脈硬化の進展に関与することが明らかとなっております。さらには、メタボリックシンドロームのキー分子としても注目を浴びており,弊社におきましては,簡便かつ迅速に血中アディポネクチン濃度の測定が行われることを目的とし,アディポネクチン測定系を開発しておりますので,貴学会中国四国支部学会にてご紹介させて頂きます。
連絡先 大塚製薬株式会社徳島支店(088)666‐4820

学会印象記

徳島大学医学部付属病院  中尾隆之

栗林公園(写真提供 MA氏)

平成20年8月9日、第3回生物試料分析化学会中国四国支部学会が学会長である香川県立大学の徳永賢治先生のもとに開催されました。当日は最高気温が35℃を超える猛暑日であり、高松駅から会場である香川県社会福祉総合センターまでの徒歩15分の道のりは、大粒の汗が流れてくるものでした。
学会は、若い学生さんから中四国の重鎮とおぼしき先生方まで、非常にバラエティに富んだ皆さんが数多く参加され、活発な討論が行われました。支部長の宍野先生が自らベーシックな質問を演題ごとに積極的に行い、活発な討論が行われる上での絶妙な「呼び水」となっておられたことが非常に印象的でした。宍野先生の本支部学会に対する愛着・情熱を垣間見ることができ、微力ながら私自身も本支部会の発展に寄与したいという思いが湧いてきました。
個人的には、大阪大学で凝固線溶検査を教えていただいた恩師である、広島国際大学の阪田先生に15年ぶりにお会いできたことが最大の収穫でした。これからも、本学会で日常業務とは違った分析科学に対するグローバルな眼を養っていこうと思った1日でした。

愛媛大学大学院医学系研究科  沖浦達幸

栗林公園35橋

平成20年8月9日、香川県高松市社会福祉総合センターにおいて、第3回生物試料分析科学会中国四国支部学会が開催されました。8月上旬の猛暑の中での学会であり、手にしたハンカチが汗を吸い込まなくなるほど汗だくになり、やっとの思いで会場に辿り着いたのが印象に残っています。本学会について想うのは、生物試料という幅広い分野が対象でありながら、コンパクトで密度の高い内容であるということです。また、宍野宏治先生をはじめとする役員の方々は皆和やかで親しみやすく、楽しい雰囲気の中で会が進行してゆくのが何とも心地良く感じられます。各演題の内容はそれぞれ分野が異なり、聞いたことも無いような専門用語が飛びかい、それを理解しようと必死に耳を傾けているうちに今回も会が終わってしまいました。しかし、未知の分野を垣間見て、何とも言えない充実感に包まれています。来年は広島で本学会が開催される予定であり、来年こそは自分の研究も新たな展開を見せることを期待しつつ松山までの列車に揺られていました。

以上